デュアルピニオン式電動パワーステアリングはなぜイイのか

 近年、デュアルピニオン式電動パワーステアリング(EPS)の採用が国産Cセグメントクラスにも広がっています。デュアルピニオン式はなぜ、何がイイのでしょうか?自動車メーカーやモータージャーナリスト達は『デュアルピニオン式EPSは良い』と言いますが、コラムアシスト式EPSのクルマでもデュアルピニオン式EPSのように良いクルマはあります。ホントの違いはどこにあるのでしょうか?現役自動車メーカーエンジニアの視点で解説するので、EPSの本質に迫りたい方は御一読ください。

メーカーの説明では納得できない!

 例えばスバル レヴォーグのメーカーサイトでは、デュアルピニオン式EPSについて下記のような説明があります。

2ピニオン電動パワーステアリング

電動パワーステアリングのモーターアシスト軸と、ドライバーのステアリング操作軸を別軸にする2ピニオン方式を採用。より滑らかでリニアなステアリングフィールを実現し、スポーティかつ上質な走りを提供します。

https://www.subaru.jp/levorg/levorg/?=view_menu

 一方、電動パワーステアリングを作るサプライヤーのHPでは、従来製品(ピニオンアシスト式やコラムアシスト式)に比べて搭載性や設計自由度が向上したことを強調しています。確かにコラムアシスト式ではモーター本体の大きさが大きくなりすぎると室内側にあるモーターが邪魔になり、ピニオンアシスト式ではラックとピニオン部に負荷が大きくなるのでピニオン部が大型化してしまいます。サプライヤーの主張はわかりやすいと思います。

 デュアルピニオン式EPSだから『滑らかさ、リニアさ、上質さ、スポーティさ』があるのでしょうか?コラムアシスト式ではこれらは得られないのでしょうか?そんなことはありません。コラムアシスト式でも上記のようなフィーリングの良いクルマは存在します。ではなぜ自動車メーカーはデュアルピニオン式EPSを採用するのでしょうか?

デュアルピニオン式EPSの本質は支持剛性?

 デュアルピニオン式EPSとコラムアシスト式EPSでは、『モーターが回ろうとする力の反作用をどこで受けるか』に違いがあります。本サイトで度々とりあげている『剛性』がここでも関係してきます。今回はボディ剛性ではなく、部品をその場に留めておくための剛性(支持剛性)です。

 モーターアシストの反力は、モーターを保持している部品が受けることになります。デュアルピニオン式EPSの場合、モーターはステアリングギアボックスに取り付けられており、そのギアボックスはフロントサブフレームにマウントされます。サブフレームはサスペンションからの入力も受け止めるほど十分な剛性があるので、サブフレーム自体の支持剛性は無視できます。

 一方、コラムアシスト式EPSの場合、アシスト用モーターはドライバーが握るハンドルの支持部(ステアリングコラム)に搭載されています。ステアリングコラムはインパネリインフォースメントという部品に固定されています。インパネリインフォースメントは、左右のAピラーの間につっかえ棒のように付いている部品ですが、その剛性は必ずしも十分ではありません。

 インパネリインフォースメントの剛性が十分でない場合、モーターアシストの反力によってハンドル支持部が動いてしまうことになるため、人間の手の敏感なセンサーはそれを感じ取ってしまいます。

 このモーターアシストの反力でハンドルが動かないことが、デュアルピニオン式EPSで感じる『滑らかさ、リニアさ、上質さ、スポーティさ』の正体の一つだと考えられます。

外部入力の遮断もデュアルピニオン式EPSが有利

 さらに、モーターアシスト反力をサブフレームで受けているのと同様に、外部入力もサブフレームで受けることができます。

 油圧パワステから電動パワステになったことで、モーターによる外部入力のシャットアウトが可能になりました。特にデュアルピニオン式EPSでは顕著です。モーターが受け取る外部入力の経路は、タイヤ→ナックル→タイロッド→ステアリングラック→モーター→ステアリングギアボックス→フロントサブフレーム となり、ドライバーが保持するハンドルに直接伝わりません。

 一方コラムアシスト式EPSの場合、ステアリングコラムの支持剛性が十分でないと、モーターアシスト反力と同様、ハンドルに外部入力が伝わってしまいます。この外部入力が『上質さ』をスポイルしてしまいます。

コラムアシスト式EPSでもフィーリングが良いクルマ

 ただし、冒頭でも触れたようにコラムアシスト式EPSでもフィーリングが良いクルマは確かにあります。コラムアシスト式EPSでフィーリングがイイクルマには2種類あると思います。

 1つ目は、前軸重量が比較的小さく、大きなアシスト力を必要としないクルマです。2つ目は、ステアリングコラムの支持剛性を積極的に高めているクルマです。トヨタのTNGA採用以降のプラットフォームではステアリングコラムの支持剛性を以前より高めており、Cセグメントクラスのプリウスやカローラ系でも、上質なフィーリングになりました。

 コラムアシスト式EPSでもステアリングフィールがイイクルマの代表格はフォルクスワーゲンのup!です。現在国内販売は終了してしまいましたが、1トン切りの車重の軽さや支持剛性の高さから、ステアリングフィールはコンパクト系随一でした(筆者主観)。軽自動車では、コストが掛かるブラシレスモーターを使うホンダ系や日産系が比較的良いステアリングフィールを持っています。

それでもデュアルピニオン式EPSが増えているわけ

 それでもデュアルピニオン式EPSが増えている構造的な要因は、ステアリングコラムの支持剛性を上げるよりもコストや重量、商品性への費用対効果が高いからだと思います。クルマはモデルチェンジの度に進化することを求められる一方、デュアルピニオン式EPSの部品コストも次第に安くなります。

 また、今後の自動運転化を見越しているとも考えられます。自動運転中はモーターの力だけで操舵することになり、モーターが受ける反力が増えます。モーターの支持剛性が低いと操舵介入が一回の制御で決まらず、フラフラしてしまいます。自動運転はソフトウェアで決まると思われがちですが、ハードウェアから競争は始まっているのです。

まとめ

・デュアルピニオン式EPSの本質はアシストモーターの支持剛性の高さ

・コラムアシスト式EPSでも車重が軽くてステアリングコラムの支持剛性が高いクルマはフィーリングがイイ

・商品性、重量の費用対効果や部品コスト、自動運転を支えるハードウエアとしてデュアルピニオン式EPSへの注目度は高まっている

コメント

  1. 高橋 廉 より:

    始めまして、少し古い記事なので読んで頂けるかどうか分かりませんが、
    自動車会社にお勤めということなので、ご参考まで書きました。

    先ず、一般的にステアリングラックはフレームにゴムブッシュを介して取り付けてありますので、
    デュアルピニオン式の方が滑らかに動くというのは、支持剛性が高い訳ではありません。
    ゴムブッシュがあることと、ハンドルからEPSモータ及び前輪タイヤまでの距離が長いので、
    動力伝達機構の剛性が低いため、
    アシストモータ起動時のスティックスリップする動きが余り感じられないためだと思います。

    近年、アシストモータ起動時のスティックスリップに関しては、
    トルクセンサの安定化やディザ制御の改良によって、
    ハンドルでの操舵ではコラムアシスト式でも滑らかに動かせるようになってきましたが、

    タイヤからの力に対する動きに対してはアシストモータは制御されず、EPSは単なる摩擦抵抗となります。
    そのため、タイヤによるセルフアライニングトルクに対しては、
    動かない又は突然動くというスティックスリップ現象が生じて位置が安定ませんから、
    たとえ直進時であっても常にハンドルによる修正舵が必要です。

    以上のように、近年の電動パワステの車両は、
    オンセンターフィール(直進走行感)が感じられないだけでなく、運転がしづらいのです。
    そして、これを軽減しようとするのが、レーンキープ・アシストです。

    • HAL より:

      ご指摘ありがとうございます。
      スティックスリップや摩擦特性がEPSフィールに大きく影響する点は私もその通りだと思います。

      一方で本記事で議論したかったのは、EPS一般の摩擦特性ではなく、コラムアシストEPSとデュアルアクシスEPSにおけるアシスト反力の支持経路の違いです。
      デュアルアクシスEPSではモーター反力がラック側で閉じるのに対し、コラムアシストEPSでは反力がコラム支持系へ作用します。
      この構造差が操舵フィールへ与える影響をどのように考えるかが本記事の主題でした。

      スティックスリップの寄与も含めて、どちらが支配的かは今後も考察していきたいと思います。

タイトルとURLをコピーしました