ボディ剛性③ 横曲げ剛性

 前回はボディ剛性の中でも基本となるねじり剛性について解説しましたが、今回は横曲げ剛性です。ねじり剛性が高速安定性や乗り心地の面でメリットがあるのに対して、横曲げ剛性は操縦安定性(とりわけ操縦性)に寄与すると考えられています。操縦安定性とは、クルマをドライバーの意図通りに動かせるかという操縦性と、クルマが直進する安定性をいかに両立するかという性能です。横曲げ剛性はこれらの性能にどのように寄与しているのかを解説していきます。

操縦性と横曲げ剛性

 クルマの横曲げ剛性を高めると、クルマの操縦性が向上します。操縦性が向上すると、ステアリングを操作したときリニアにクルマが反応します。これは人が運転して感じる気持ち良さやクルマとの一体感に大きく寄与する特性です。

 では、どうして横曲げ剛性を高めると操縦性が向上するのでしょうか?まずは操舵してからクルマが曲がり始めるまでの現象を解説します。ステアリングを操作するとフロントタイヤに舵角がつきます。そうすると進行方向に対してスリップアングルが生まれ、スリップアングルに応じてコーナリングフォース(コーナー内向きの力)が発生します。この時点ではまだリアタイヤにコーナリングフォースは発生していないので、クルマは旋回(円運動)していません。

 フロントタイヤに発生したコーナリングフォースは、ヨーモーメント(クルマを上下方向の軸周りに回転させる力)として作用します。ヨーモーメントによってクルマが回転することでリアタイヤにもスリップアングルが生まれ、コーナリングフォースが発生します。フロントタイヤとリアタイヤのコーナリングフォースが発生することにより、クルマは旋回(円運動)し、遠心力とコーナリングフォースが釣り合います。

 横曲げ剛性が低いとどうなるでしょうか?この場合、フロントタイヤに発生したコーナリングフォースによって車体が曲がるため、リアタイヤのスリップアングルが小さくなります。そのため、同じ旋回(円運動)をするために、より多くのステアリング舵角が必要になり、応答性(いわゆるレスポンス)も悪くなります。逆に横曲げ剛性が高い場合は、少ない舵角で応答遅れが少ない旋回が可能となります。

高速安定性と横曲げ剛性

 操縦性の向上に比べてわかりづらいですが、高速走行時の安定性にも寄与します。駆動方式を問わず、シャシー関係のエンジニアはクルマの安定性を高めるためにリアタイヤを使います。サスペンションのジオメトリーを工夫し、外乱トーイン特性などを作り込んでいます。これは外乱によってクルマが左右に振られそうになったときの復元力としてコーナリングフォースを利用しており、このときのコーナリングフォースはトーインによるスリップアングルで発生します。

 横曲げ剛性が高いとコーナリングフォースによる復元力がクルマ全体に遅れなく伝わるため、クルマは外乱に対してもすぐに安定を取り戻し、収束も早くなります。ここでもやはり、サスペンション性能を活かすにはボディ剛性が欠かせないと言えます。

横曲げ剛性を高める車両構造

 クルマの横曲げ剛性を高めるには、どんな構造が必要でしょうか?ねじり剛性の場合、箱状のクルマ全体をねじるのでクルマのアンダーボディとアッパーボディを合わせたモノコックとしての剛性が必要です。バックドアやサイドドアなどの開口部(剛性的に弱いところ)をかため、骨格部材の継ぎ目に節(ふし)を作らず滑らかに繋ぎます。

 一方、横曲げ剛性は主にアンダーボディで決まります。これは、ねじり剛性が立体のねじりであるのに対し、横曲げ剛性は平面内での曲げであるからと言えます。横曲げ剛性を高めるには、クルマのアンダーボディにブレース類(離れた部品を繋いだり、斜めに繋げる部品)を追加することでかなり向上します。

出典:https://toyota.jp/grcorolla/ft/performance/?padid=from_grcorolla_top_navi-menu_ft-performance

 ねじり剛性同様に明確な開発目標値があるわけではないので、試作車をベースにブレース類を足し引きし、ドライバーの官能評価をもとに決めることが多いです。床下のブレースによる操縦性向上は、大衆車をベースにしたスポーツグレードでおなじみかと思います。上図はGRカローラのもので、床下のトンネル前側に1本、トンネル中央に井形のブレース、トンネル後部のタンク前に1本、リアホイールハウス間に1本と、かなりの補強が入っています。これらは衝突安全性能には寄与せず、操縦安定性を向上させる目的で装備されています。

 ブレースではなく、アンダーボディ自体で横曲げ剛性を高めるには、ドア開口部の敷居(ロッカー、サイドシル)で剛性を高めるのが効果的です。特にロータス車のサイドシルは縦にも横にも大きいことで有名です。断面を大きくしたほうが少ない質量で効率的に剛性を確保できるので、乗降性や居住性が犠牲になることを除けばとても理にかなっている構造です。

まとめ

・横曲げ剛性はクルマの操縦性を向上させる

・横曲げ剛性は高速安定性にも貢献する

・横曲げ剛性を向上させるにはアンダーボディの強化やブレースの追加が効果的

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