【試乗記】フォルクスワーゲン・ゴルフGTI ベンチマークをさらに超えたベンチマーク

 最近聞かなくなりましたが、一昔前はベンチマークといえばゴルフというのが日本のコンパクトカー作りの常識でした。ベンチマークとは、クルマを開発する上での目標や基準となるクルマのことです。それだけゴルフというクルマは代々、良いクルマのお手本のようなクルマ作りをしていました。ここで過去形なのは、ゴルフというクルマが廃れたわけではなく、電動車や自動運転車などへの転換期の真っ只中において、ベンチマークの考え方が変わってきたことが原因だと考えています。

 今回、新型ゴルフ8のGTIに試乗する機会があり、『元』ベンチマークの実力をチェックしました。

ウェット路面でもアンダー知らず! 超安定のスポーツモード

 まず日常的な領域でのハンドリングは期待通り!フォルクスワーゲン車共通の思想(と勝手に考えています)通りのハンドリングを高次元で実現しています。このハンドリングの良さは主に以下のようなプロセスで生まれています。

①リア周りの高いボディ剛性とマルチリンクサスペンションのトーコントロールでリアタイヤをしっかり安定させる

②リアタイヤで安定性を高めた分、ステアリング周りの剛性やフロントタイヤのトー剛性を上げ、操作性を向上させる

③ステアリングを切る→すぐにクルマが反応する→反応が収束する、という一連の動作により、高いハンドリングとライントレース性を実現

 これはゴルフ特有のものではなく、ごく一般的な手法です。ゴルフの場合、これらを愚直に、高いレベルでやっているからこそ、質実剛健なクルマ作りと評価されるわけです。

 FFスポーツモデルのライバルであるシビックタイプRやメガーヌR.S.がデュアルアクシスストラットを装備しているのに対し、ゴルフGTIは標準のストラットと持ち前の操縦安定性に加えて電子制御油圧式デファレンシャルロックを装備しています。試乗の日はあいにくの雨でしたが、結果的には好都合でした。なぜならドライ路面で今どきのハイパフォーマンスモデルの限界を試そうと思ったら相当な覚悟が必要だからです。その点、ウェット+上り坂+タイトコーナー+FFならば、簡単にトラクションロス時の挙動を確認できます。

 ウェットでの試乗の結果、高いトラクション性能とグリップ感、安心安定の速さを感じました。ベース車から持っている操縦安定性の高さに加え、デフの効果も大いに感じられます。電子制御油圧式デファレンシャルロックは、内輪がスリップして滑り出す瞬間から作動し、駆動力を外輪に振り分けることでFF特有の駆動力によるアンダーステアを見事封じ込めています。その反面、限界域でのハンドルからの手応えの変化がわかりにくく、今回の試乗では限界域でのコントロール性はわかりませんでした。

妻を口説き落とせる! コンフォートモードの乗り心地とリアシートのフィット感

 やはりこの手のホットハッチで気になるのは日常使いでの快適性です。試乗車はオプションの235/35R19のタイヤ&ホイールとDCC(アダプティブシャシーコントロール)を装備していました。ちなみに試乗車のタイヤ銘柄はBRIDGESTONEポテンザのS005で、Youtubeの試乗動画ではGOODYEARのイーグルF1を履いていました。

 DCCで電子制御サスペンションでダンパーの減衰力を低くすると、突き上げ系の乗り心地が良くなります。バネ定数自体は変わりませんが、ボディ剛性の高さと相まって足が良い動きをしてくれています。

 日本人が苦手なこの突き上げ系の乗り心地が改善されると、乗り心地にうるさいうちの妻のようなタイプを説得するのに好都合です。実際乗った印象としては標準グレードのゴルフ8と大差ないレベルです。バネは硬いですが、エンジン等の重量増もあるのでどっしりとした高級感すら漂います。乗り心地的には18インチタイヤとDCCの組み合わせがあればさらに良かったのですが、DCCパッケージで19インチとセットになっているので選べません。ちなみに先代GTIの7DSGモデルの実燃費は、e燃費で平均で10.7km/Lとまずまずな数値です。高速巡航なら15km/L前後が狙えそうです。

 リアシートの快適性も高いと言えます。標準グレードと共通ですが、妻を試しに乗せてみると、座面の広さやシートバックのホールド性が気に入ったようです。後席(センターコンソール)にエアコンの吹き出し口があるのもこのクラスの良いところです。

スポーツモデルの中でもベンチマーク

 標準グレードのゴルフは従来通り、コンパクトカーのベンチマークと呼ぶに値する出来でしたが、GTIもまたベンチマークの上位車種にふさわしい出来です。標準グレードの良さをそのままに、線形的に走行性能を上乗せしています。言葉にすると簡単ですが、これはすごいことです。例えばヤリスに対するGRヤリス、メガーヌに対するメガーヌR.S.、BMWに対するMパフォーマンスモデルなどは、標準車の利便性が損なわれていたり、普段使いで我慢を強いられたり、見た目が派手過ぎたりすることがあります。それに比べてゴルフGTIは派手すぎない差別化やエンジン特性、電子制御サスペンションなどを駆使して標準グレード並みのとっつきやすさと高い走行性能を高いレベルで両立させています。これはホットハッチの一つの完成形と言えます。他メーカーはこのゴルフGTIを基準(ベンチマーク)に、より硬派なスポーツモデルを目指すのか、電子制御による高次元の走りを目指すのか、ラグジュアリーな上級モデルを目指すのか、苦慮していくことになります。

 スポーツモデルなのに癖がなく、扱いやすいので、初めてのスポーツモデルや最後のスポーツモデルにこのゴルフGTIはぴったりかもしれません

まとめ

日常的な領域でのハンドリングは期待通り!フォルクスワーゲン車共通の思想通りのハンドリングを高次元で実現

FFスポーツモデルのライバルであるシビックタイプRやメガーヌR.S.がデュアルアクシスストラットを装備しているのに対し、ゴルフGTIは標準のストラットと持ち前の操縦安定性に加えて電子制御油圧式デファレンシャルロックを装備

・内輪がスリップして滑り出す瞬間から電子制御デフが作動し、駆動力を外輪に振り分けることでFF特有の駆動力によるアンダーステアを見事封じ込め、ウェットでも高いトラクション性能とグリップ感、安心安定の速さを実現

乗り心地は標準グレードのゴルフ8と大差ないレベル、エンジン等の重量増もありどっしりとした高級感が漂う

スポーツモデルなのに癖がなく、扱いやすいので、初めてのスポーツモデルや人生最後のスポーツモデルとしてオススメ

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