昨年2022年3月に惜しまれつつも生産終了となったS660ですが、今回中古で2015年式の最初期生産モデルのS660を購入しました。2015年発売当時の印象と合わせて記事にまとめたいと思います。
2015年S660発売当時の印象
絶対にファーストカーにはできないクルマだ…というのがS660のファーストインプレッションでした。当時夫婦二人暮らしだった私はL880K型(初代丸目)のコペンに乗っていました。同じ2シーター軽オープンが発売されたことでとても気になっていたのですが、荷物の積載量の点でどう考えても夫婦二人で1台運用は不可能でした。
当時ディーラーで試乗した感想もパッとしないクルマでした。エンジン音は軽自動車のそれで、乗降時には尖ったインパネが膝に当たり、視界が悪く街なかで運転しにくい、そんな印象です。試乗コースはディーラー指定のつまらないコースでした。さらに初代コペンの油圧パワステのフィーリングが気に入っていたこともあり、S660の電動パワーステアリングのニュートラルステア付近の重さが人工的であまり好きではありませんでした。
2023年現在の評価
発売から7年以上経ち生産終了した今、中古のフルノーマルS660をワインディングで検証しました。良くも悪くもクセが多いクルマです。走りについては大いに満足ですが、ベースが良いだけにチューニングでモアパワーが欲しくなってしまいます。
S660のここが良い!!
街乗りではパッとしない印象でしたが、ワインディングではかなり楽しく走れるクルマです。楽しい要素は以下の点にあると思います。
唯一無二のパッケージング
FFでも4WDでもMRでも、良いクルマというのはパッケージングが上手いクルマだと思っています。荷室を作らずに走りに振ったパッケージは見事です。よくこれで商品化出来たなぁ、と思ってしまいます。専用プラットフォームだけあって車両の運動性能をパッケージングから作り込んでおり、マスの集中や低重心、ドライビングポジションを高次元で成立させています。前後重量配分に正解はないと思っていますが、運転していてリアヘビー感は無く、文句のつけようがありません。
ハンドリングと安定性の両立
S660のようなMR車はフロントが軽く回頭性が良い反面、リアタイヤがブレーキしたときのスピンが早く安定性に欠けるという特性があります。そこでS660は電子制御を使って安定性を確保…してると思いきや、そんなことはありませんでした。リアサスペンションはほぼ新設計であり、前後左右上下の外力に対してトーインをつける基本に忠実なサスペンションジオメトリーにより、電子制御を使わなくてもしっかりとした安定性を確保しています。このリアの安定性があるからこそ素晴らしいハンドリングになっていると思います。
ちなみに発売時に試乗したときに気になった電動パワーステアリングの味付け(ニュートラルステア付近で感じる人工的な重さ)については、操舵初期に運転者がハンドルを切りすぎることを抑えるためのものだと思っています。これはMINIの3ドアなどのスポーツモードでも顕著でした。
バイクのようなコーナリング
ハンドリングの軽快さと積載力の無さから『バイクのようだ』と言われがちなS660ですが、私がバイクのようだと思うのはそれだけではなく、そのコーナリングです。具体的には、ターンインしてブレーキを完全に離し、コーナーのクリップ付近からアクセルを開けていくと、安定しながらグイグイ曲がっていく特性です。FFや4WDであればアクセルを開けるのが早すぎてフロントタイヤのコーナリングフォースが減りアンダーステアになってしまいます。
S660がなぜ早めにアクセルを開けれるのかというと、前後重量配分が45対55で若干リアよりですが、フロントタイヤサイズ165/55R15に対してリアタイヤが195/45R16と、重量配分以上にリアタイヤのキャパが大きいバランスです。コーナリング中の横Gと前後タイヤのコーナリングフォースが釣り合っている状態を考えると、フロントタイヤが限界付近だとしてもリアタイヤには余裕があります。その状態からアクセルを開けてリア荷重にするとリアタイヤの仕事可能量が増え(摩擦円が大きくなる)、その分駆動力とコーナリングフォースを発揮できます。結果としてコーナーでアクセルを早めに開け、グイグイとバイクのように曲がりながら加速体勢に入っていくことが出来ます。
S660のここが不満
インパネの造形
ただでさえ車高が低くて乗降性が悪いのに、インパネのエアコン吹出口部分がドア開口幅を狭めてしまっています。デザイン優先にしてももう少し配慮してほしかったと思います。
エンジン排気量
ホンダが軽規格で本格的なスポーツカーを作った結果、どうにもバランスが悪くなっているのが車体とエンジン性能です。車体側の運動性能が素晴らしいだけに、660ccの軽エンジンでは物足りないというのが本音です。もちろん街乗り+ワインディングで楽しく走れるだけの性能は持ち合わせているのですが、低回転域でのトルクの立ち上がりと5000回転以上の伸びが残念です。チューニングという手段はありますが、信頼性や中古市場のことを考えるとメーカーから排気量アップモデルが出ていれば良かったと思います。一部のカー雑誌で噂されていた1LターボのS1000が登場していたら…とないものねだりを考えてしまいます。
まとめ
ホンダ車は生産終了すると評価が上がるのが定番になってきていますが、S660にも当てはまりそうです。ホンダは2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標に、モビリティの電動化を進めています。それ自体は必要なことだとは思いますが、多くのリソーセスをカーボンニュートラルのために割かれることになります。続けられないとわかっている純ガソリン車を新たに発売することはしないでしょう。しかし、日産サクラ/三菱eKクロスEVが軽EVの可能性を示した今、新たに軽EVスポーツカーが作られる可能性は十分あると思います。
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