本サイトではこれまで剛性や強度、高張力鋼板やらギガプレスやらを解説してきましたが、今回はボディ剛性を掘り下げていきます。ボディ剛性にはねじり剛性、縦曲げ剛性、横曲げ剛性、局部剛性などがありますが、まずはボディ剛性の基本であるねじり剛性について解説します。クルマの歴史はボディ剛性の歴史と言っても過言ではありません。元々はフレーム構造だった乗用車は、第二次世界大戦後、モノコック構造が広く採用されるようになりました。これは敗戦国の航空機メーカーが解体され、航空機のエンジニアが自動車を作り始めたことがきっかけだと言われています。モノコック構造が採用されたことにより飛躍的にボディ剛性が高くなった自動車ですが、その後も高速走行性能、乗り心地性能などの要求から、ますますボディ剛性が高くなってきているというのが現状です。
ねじり剛性とは?
クルマのねじり剛性とは、クルマの前後方向の軸でクルマをねじったときのねじりにくさです。クルマのボディは質量を持つバネであり、ねじり剛性はボディをねじったときのバネ定数にあたります。
なぜねじり剛性がボディ剛性の基本なのかというと、クルマのような箱型構造の場合、曲げよりもねじりに弱く、縦曲げ剛性や横曲げ剛性に比べてボディ剛性の低さが性能に現れやすいからです。
どんなときにボディがねじれる?
ボディがねじれるのはどんなときでしょうか?例えばフラットではない凸凹道を走ったときです。4つのタイヤはそれぞれバラバラに動きますが、そのうちのひとつのタイヤに入る入力を考えると、サスペンションを介してボディをねじるように働きます。このときのボディ剛性は、乗り心地に影響します。
また、コーナリング中(特に前後ロール剛性配分が異なる場合)や直進中も、タイヤへの入力により常にボディがねじられています。このときのボディ剛性は操縦安定性に影響します。
ボディがバネであることの問題
では、ボディがねじれると何が悪いのでしょうか?ボディがねじれたとき、ボディ全体がバネのように機能します。衝撃を吸収するという意味では良さそうですが、問題はこのバネにダンパーが付いていないことです。
サスペンションの場合、バネの作用でバネ下が振動してしまう特性をダンパーが減衰させることで成り立っています。ボディにはこのダンパーが無いため、一度大きな入力が入ると振動がなかなか収まらず、乗り心地や高速安定性に悪影響が出てきます。
乗り心地とねじり剛性
ねじり剛性を高くすることでまず良くなるのが乗り心地です。その昔、私が勤める自動車メーカーで、普通の乗用車に試験的にロールバーを組んだところ、まさに高級車のような乗り心地になったということを先輩に聞きました。
『ボディ剛性を上げるとサスペンションが機能するようになる』とよく言われますが、乗り心地とねじり剛性についてもう少し物理的な解説をします。
クルマの動的な動きを要素ごとに分解してみます。ボディはバネとして動き、車体各部の質量は力が加わると慣性力が働くため、車体各部の質量は等速直線運動を続けようとします。つまり、ボディはサスの着力点と車体各部に分散した質量との間で変形します。
タイヤからの突き上げ入力はボディの着力点(サスタワーなど)を介してボディを変形させます。このとき、車体各部の質量の慣性力はバネ(ボディ剛性)を経て着力点を押さえ付けるように働いています。ボディ剛性が低いと着力点を押さえ付ける力が小さく、着力点が動くことによってそれがボディを伝搬し、振動として乗員に伝わります。さらに、ボディにはダンパーが無いのでブルブルとした振動が続き、これも乗員にとっては不快です。
一方、ボディ剛性が高いと着力点を上から押さえ付ける力が大きくなり、サスが動きやすく、着力点は動きにくくなります。その結果、乗員に伝わる振動が減り、乗り心地が快適になります。タイヤの接地性も高くなるため、高速安定性にも好影響を与えます。
操縦安定性とねじり剛性
操縦安定性とは、操縦性(クルマを意図通りに動かせるか)と安定性(クルマが直進するか)という相反する性能をいかに両立するかを指します。操縦性に影響しやすいのはクルマの横剛性であり、ねじり剛性が影響するのは主に安定性の方だと考えられています。
前述の通り、ねじり剛性の低さが安定性に影響するのは着力点でサスペンションを押さえ付ける力が変動するためです。高速走行時にクルマが安定して走行するためにはタイヤが適切に機能し、常に外部からの入力によってふらつくクルマが直進するための摩擦力を発揮する必要があります。タイヤと路面の間の摩擦力はタイヤ荷重に依存するため、タイヤ荷重が変動すると安定性が失われます。
ねじり剛性が影響する安定性は高速域になるほど顕著に現れます。低速走行が多い日本車よりも高速走行が多いドイツ車のボディ剛性が比較的高いのは必然とも言えます。
コメント