フォルクスワーゲンID.2 allでわかる最新EVプラットフォーム戦略

 フォルクスワーゲンは、コンパクトEVコンセプト『ID.2 オール』(Volkswagen ID.2 all)を発表しました。これは2025年に市販予定の小型EVを提案したコンセプトカーです。市販モデルは『ID.2』になるのではないでしょうか?全長は約4mで航続距離は欧州WLTPモードで450km、価格は2万5000ユーロ以下を予定しているとのことです。今回は現役自動車メーカーエンジニアの目線でフォルクスワーゲンの『ID.2 all』の技術的な見どころを紹介したいと思います。

ID.2 allの公開スペック

全長×全幅×全高:4050x1812x1530mm
ホイールベース:2600mm
駆動:1モーター 前輪駆動
出力:166kW
航続距離:欧州WLTPモードで約450km

内燃機関と共存?フォルクスワーゲン先生のプラットフォーム戦略

 フォルクスワーゲンがコンパクトカーを発表することは、我々エンジニアにとっては大きな意味があります。それはある意味、先生からの模範解答の公開だからです。スポーツカー作りの先生がポルシェであるように、セダンづくりの先生がベンツ/BMWであるように、コンパクトカー作りの先生はフォルクスワーゲンなのです。ただし、先生はすべてを言葉で教えてはくれません。『先生の模範解答はこれです。あとは自分で考えてみましょう。』と言われているようです。

 頑張って模範解答を紐解いていきたいと思います。公開されている情報によると、インバーターとモーターはフロントセクション、床下にバッテリーを平敷き、フロントストラット式、リアトーションビームのサスペンション形式になっています。これは明らかに荷室優先のパッケージです。また、ID.3やID.4では後輪駆動なので、CセグメントとBセグメントの間に明確に線引をしたことになります。AセグメントのID.1が控えているかはわかりませんが、ID.2と同じく前輪駆動になるはずです。

 (後輪駆動にもできるのに)あえて前輪駆動にしたことの狙いは荷室空間の確保以外にもあります。それこそが内燃機関を持つプラットフォームとのモジュール共用化です。フォルクスワーゲン先生はプラットフォーム戦略に関して質実剛健&完全合理主義なので、共用化を無視するはずがありません。エンジンはAセグのup!からCセグのゴルフまで、基本同じ1.0Lの3気筒エンジンを載せているほどです。

 具体的には前後サスペンションや車両骨格構造をエンジン車(次期ポロ?)と共通化できます。エンジン車との違いはエンジンルーム内のインバーター/モーター類と床下のバッテリー(燃料部品)なので、衝突安全で保護する部位も共通です(少々乱暴ですが)。側面衝突におけるバッテリー保護は一工夫必要になると思いますが、前後方向の衝突に対する構造はエンジン車と共通化できるでしょう。フロア以外のプラットフォームは基本共通化することも考えている可能性があります。

プジョー君の208/e-208との違い

出所:web.peugeot.co.jp

 実はこれらと近い関係にあるのがプジョーの208とe-208です。これらは『パワー・オブ・チョイス』のコンセプトのもと、外観や内装、走りにも共通性を持たせ、ユーザーにエンジンかモーターかを選んでもらう、というものでした。

 では、プジョー君とフォルクスワーゲン先生の違いを見ていきましょう。ID.2もe-208も前輪駆動ですが、バッテリー配置に違いが見られます。e-208は前後座席の下や中央のトンネル部分に駆動用バッテリーを搭載しています。足元下に配置しないことで、後席乗員もエンジン車と同等の乗車姿勢が得られます。

 一方、フォルクスワーゲン先生のID.2では、テスラのように床下一面にバッテリーを敷き詰めています。メリットはバッテリー容量の確保です。航続距離がWLTPモードで450kmということは65kWhクラスのバッテリー容量が必要です。衝突安全上も床下しかスペースがないので、この配置は必然です。

 ただし、この配置にはデメリットもあります。床面が上がるため、後席乗員が体育座りのようになってしまいがちです。ID.2 allでは対策として後席の座面を上げ、頭上のスペースを確保するためにルーフを高くしています。ポロの全高が1450mmに対してID.2 allは1530mmと、80mm高くなっています。機械式立体駐車場の上限が1550mmのところもあるので、ギリギリを攻めていますね。ちなみに208とe-208の全高はともに1445mmです。ID.2 allのスタイリングはポロのように見えますが、背が高くなってしまった分の腰高感は1812mmの全幅でカバーしています。ID.2もこの全幅になるかは不明ですが、ポロの1750mmより大きくなることは確実です。

 ちなみにメルセデスEQブランドのエントリーモデルであるEQA250も208/e-208と同様、既存のエンジン車と共通プラットフォームを持つEVであり、前輪駆動です。エントリーEVモデルはエンジン車と共通プラットフォームでコスト削減がトレンドになっています。

ID.2の走行性能はガソリン車の上位互換?

出所:peugeot.co.jp

 ID.2の走行性能に関してはプジョー208/e-208の例から予想できます。走り出しはモーターのレスポンスの良さが光り、ポロ(エンジン車)よりも上質になります。重心高は低くなりロールが抑えられるので、さらなる安心感や安定感が得られます。また、e-208が208よりも明らかに優れているのは重量マスの一体感です。EV全般に言えることですが、エンジンや排気管、ガソリンなどぶら下がっている重量が無いので、ステアリングを操作したときの車体の反応がスッキリ明快になります。おそらく前後重量配分も55:45程度になり、車体の揺れも抑えられるので乗り心地も良くなります。

リアサスペンションはハの字型ブッシュ配置

 ひとつ気になったのは、リアのトーションビーム式サスペンションのボディ取付部のブッシュの軸が斜め配置(ハの字型)になっていることです。近年の欧州車では進行方向に直角な左右同軸配置(直角配置型)が主流でした。これはフリクション低減や軽快感があるハンドリングに寄与します。対して国産車は横力トーインによる安定性を狙ってハの字型が多かったのですが、最近のヤリスやアクアは欧州のトレンドに習い直角配置にしています。しかし、ID.2 allの公開画像を見ると、旧国産車トレンドのハの字型の配置になっています。

 これは前後重量配分がFFのガソリン車と比べてリア寄りになることへの対策だと考えられます。コーナリング時のリアの慣性モーメントが大きくなることに対し、横力トーインにすることでリアタイヤのコーナリングフォースを増やして相殺するということです。

 もともと直角配置型では車両ロール時にトーインとする設計思想ですが、EV化で重心が低くなるとロール量も減るため、十分なトーイン特性が得られにくいことが想像できます。また、ハの字型配置によるフリクション増加による乗り心地悪化についても、EV化で車両重量が増えるため、十分相殺可能です。このように、考えれば考えるほど合理的な設計をしていると感じるのがフォルクスワーゲン先生たる所以です。

まとめ

 フォルクスワーゲンが3月に発表したコンパクトカーID.2 allをもとに、フォルクスワーゲンのEVプラットフォーム戦略はガソリン車とのモジュール共用化であることを解説しました。また、プジョー208/e-208と戦略上の共通点が多い一方、バッテリーの配置に違いがあり、ID.2は結果として全高が高くなってしまうというデメリットがあります。また、ID.2の走行性能はエンジン車であるポロの上位互換であり、上質な乗り味になると予測しています。フォルクスワーゲンからの続報があれば引き続きレポートしていきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました