テスラ モデル3とBMW i4の違い

 先日テスラのモデル3とBMW i4を一般道や首都高で試乗してきました。乗り比べることでわかったそれぞれのブランドの戦略と立ち位置について、現役自動車メーカーエンジニアの私なりの言葉で紹介したいと思います。

 結論としては、クルマをスマートな移動手段として使いたい人や新しい物好きな方はテスラ、クルマで走るのが好きな方やクルマを乗りこなしていく感覚が好きな方はBMW i4が合うと思います。メーカーの考え方の違いが特に顕著だったのがワンペダルドライブや加速感のセッティングとパッケージ効率です。

テスラモデル3のインプレ

①RWDとAWDが想像以上に違う

 今回RWDとパフォーマンス(AWD)の両方に乗り比べることが出来ました。RWDはフロントの重量が軽いためやや路面からのコツコツ振動を感じます。ですがマイナス面だけではなく、ステアリング操作のスッキリ感があり、慣性重量が少ないのでキビキビとした回頭性もRWDの方が上です。一方パフォーマンス(AWD)はというと、前軸に重量物があるのでRWDで感じたコツコツ振動は感じられず、フラットな乗り味になります。全開加速はもちろん圧倒的にパフォーマンスが上ですが、RWDでも十分です。私としてはハンドリング面でRWD推しです。

②ワンペダルで微低速の繊細なコントロールができる

 駐車場の出し入れや狭い交差点などのよくあるシチュエーションでは、低速のコントロールの良さが光りました。今回はワンペダルモードで減速→停車→発進を行いましたが、運転者の意にそぐわない加減速が皆無で、その繊細さに驚きました。日産のe-powerでも感動しましたが、ペダルのタッチや緻密な制御、加減速の振り幅等においてテスラの方が上だと思います。

③先進的なだけではない

 「電気自動車なら既存の自動車メーカー以外でもバッテリーとモーターを調達すれば作れる」と思っている人がいます。しかし、テスラが実際にやったとされるのは、既存の自動車メーカーから大量の技術者を雇い入れたことです。エンジン技術はいらないかもしれませんが、それ以外にも数え切れない技術の塊が現代の自動車です。電気自動車であってもユーザーが快適な乗り心地で、ステアリングとアクセルとブレーキで違和感なく適切に車両が反応し、200km/h以上の速度でも安全に走行できなければなりません。今回わかったのはその片鱗に過ぎませんが、操縦安定性能と言われる分野においては既存メーカーと遜色なく、かつテスラ独自の世界観を作りつつあると思います。

BMW i4 M50のインプレ

①暴力的な加速感

 BMW i4で驚いたのは加速の鋭さです。高速道路の料金所からの加速で大きめにアクセルを踏み込みこんだところ、操作に対して一瞬だけ遅れて『ドンッ!』と加速する感覚でした。これがBMWの仕込みであることは明らかです。あえてエンジン車のような演出をすることで、EVの加速性能が際立っています。また、タメの時間を作ることで、ハンドルやブレーキ等の操作感と合わせているのではないでしょうか。どちらにせよ同乗者には申し訳ないことをしました。アクセルを操作する運転者と違い、不意打ち的に急加速をくらうので、バックレストに叩きつけられる、まさに暴力的な加速をさせてしまいました。

②ハンドリングの楽しさ

 テスラモデル3のハンドリングも俊敏さと安定性を兼ね備えて良かったのですが、やはりハンドリングが楽しいと感じたのはBMW i4でした。首都高で一般の流れに乗るぐらいの速度でもステアリングからのフィードバックが多く、クルマを運転している感覚が鮮明です。i4のベースモデルでもあるガソリンエンジンの3シリーズや4シリーズに比べて車重は大きいですが、バッテリー等の重量物がボディに直接マウントされている効果が大きく、車体の一体感があります。

③後席の乗車姿勢の悪さ

 3つ目はやや残念だったポイントです。i4は4シリーズグランクーペをベースにしていますが、床下にバッテリーを敷き詰めているために、後席の足元フロアが高くなっています。そのため着座位置は4シリーズと変わらないので若干体育座りに近い姿勢になってしまいます。逆にこの点があるために、セダンの3シリーズではなくある程度後席を犠牲にするグランクーペをベースにすることを選んだのだと妙に納得してしまいました。

テスラとBMW i4の違い

 EVのわかりやすい特徴は加速の良さだと思います。停車状態から変速することなく100km/h以上の世界まで一瞬で加速します。しかし、今回乗り比べたテスラとBMWではその感じ方(感じさせ方)が違いました。

 テスラはどこまでもアクセル操作に忠実です。特に低速でのコントロール性が良いことは前述の通りですが、急加速するときにも加速度を滑らかに増加させることが運転者のアクセル操作で容易にできます。これにより同乗者の頭をヘッドレストに打ち付けること無く、そっとヘッドレストに乗せた上で加速できます。このコントロール性の良さは、スッキリとしたインパネなどと同じように運転者に余計な注意力を使わせない気遣いにも感じられます。

 対するBMWはスローガンの『駆けぬける歓び』を体現したEVになっていると思います。運転そのものを楽しむため、クルマからのフィードバックが多めであり、ブレーキやアクセルも気を遣わせてきます。例えばステアリングからの反力が大きめだったり、スポーツモードのときは加速に応じてスピーカーから電子音が流れます。また、アクセルを離すとクリープで進み、停車するときのブレーキタッチは他のBMW同様ややナーバスです。しかし、これらのネガティブな要素を抱えていても、高めの車速域になったときの操作性や上手く操作できたときの喜びが帳消しにしてくれます。

 私としては両方欲しいです。自宅周辺や街なかで家族を乗せて出かけるときの使い勝手はテスラが良く、たまに一人で箱根にドライブに行くなら断然BMW i4です。実際に両方買える人は少ないと思うので、その人の価値観にあったクルマを買うことになるかと思います。テスラの新しい世界観が好きな方はテスラを選んで間違いはなく、日欧のエンジン車に乗り継いできてそろそろEVも乗ってみようかな、という人はBMW i4に乗ってみることもおすすめします。

i4 eDrive40のインプレ 2023/6月追記

 i4 eDrive40 M Sportにも試乗することができました。前回乗ったi4 M50との主な違いはAWDではなくRWDであること、システム出力が544psから340psになり、最大トルクが795Nmから430Nmになっていることです。バッテリー容量は同じ83.9kWhですが、一充電走行距離 WLTCモードはM50の546kmから604kmに増えています。車重が160kg軽い2080kgなので、その違いでしょうか?

 後輪駆動であるi4 eDrive40で期待していたのはFRのような軽快かつ素直なハンドリングでしたが、実際は違いました。前軸重量が1000kgを超えるせいなのか、はっきり言って軽快ではありません。ステアフィールは重厚で、操舵した分に正比例したコーナリングフォースを発揮して曲がる感覚です。感覚としては、大きくて厚みがあるけど切れ味が鋭い包丁のようなシャープさを持つハンドリングです。

テスラとBMW iシリーズ ワンペダルドライブの違い 2023/6月追記

 i4 eDrive40に乗って改めて感じたテスラとBMW iシリーズの違いは、ワンペダルドライブの操作感です。同じワンペダルドライブでもこんなに味付けが違うものかと思いました。特に低速域での微妙な加減速や、回生ブレーキの減速力の出し方に現れています。

 BMW iシリーズのワンペダルドライブは強力なエンジンブレーキのようです。アクセルペダルを少し戻したときよりも、大きく戻したときの方が大きな減速力になります(エンジンブレーキよりはるかに強力ですが)。この方がエンジン車から乗り換えても違和感が少なく、アクセルペダル一つでスポーティでダイナミックな加減速、ダイレクトなコントロールができます。

 一方テスラのワンペダルドライブは、もっとユーザーフレンドリーな設定です。BMWと同じくアクセルペダルの戻し量に応じた減速力の調整はありますが、それだけではありません。アクセルで加速度のコントロールだけではなく、クルマの速度そのものをコントロールしているイメージです。

 例えばですが、ワンペダルドライブで車速60km/hで走行中、アクセル開度を30%から20%に戻したときに0.2Gの減速力が発生するとします。BMW i4は車速20km/h以下の低速域でも減速Gがあまり変わらず、スムーズに完全停止するには神経を使いながら繊細に減速Gをコントロールする必要があります。これはアクセル開度×減速Gのコントロールが強いためです。

 一方テスラはアクセル開度10%で10km/h、20%で20km/hというような、アクセル開度×車両速度のコントロールが強いです。そのため、低速域ではアクセル開度と速度がシンクロしているかのような操作感があり、iPhoneのスワイプ操作のようです。交差点で周囲の動きを気にしながら速度を抑え、その後スムーズに加速するような場面で抜群のコントロール性を発揮します。

 これらの違いは良い悪いではなく、メーカーの考え方の違いです。また、BMW iシリーズでもスポーツモデルと一般モデルでは味付けが異なり、SUVではマイルドな設定です。あなたはどちらのワンペダルドライブが良いと思いましたか?

テスラとBMW iシリーズ パッケージ効率の違い 2023/6月追記

 テスラとBMW iシリーズの違いの一つはパッケージ効率です。パッケージとは、クルマの中で様々な部品や機能をどの場所に配置するかという基本設計のことです。i4 M50のインプレでも記しましたが、BMW i4の後席フロアはバッテリー搭載のためにやや高くなっており、後席に乗る人はやや窮屈な思いをします。原因はi4がエンジン車と共通のプラットフォームを使っているためです。i4だけではなく、iX1やiX3などのSUVのiシリーズでも同じことです(i3やi8、iXなどは専用プラットフォームなので別)。

 また、i4 eDrive40は後輪駆動なのでフロントボンネット下には大きなスペースがありますが、テスラのようなフロントトランクにはなっていません。これはエンジン車の3/4シリーズと共通のボンネット構造やエアコンユニットの配置などにより有効活用ができなかったものと思われます。フロントセクションにはパワーコントロールユニットは入っていますが、直6エンジンが載るスペースが活用できているとは言えず、パッケージ効率は良くありません。

 その点、テスラはEV専用プラットフォームなので、最も効率がいいパッケージにできています。フロントトランクは深く、高さがある荷物が載る一方でリアのトランクにも十分な広さがあります。床下にバッテリーが敷き詰められるのは同じでも、後席のシート高さをそれに合わせて設定できるので不自然な膝の角度になりません。

 次の新型i4がいつ出るかはわかりませんが、EV専用プラットフォームになる可能性は低いと思います。エンジン車と共通のプラットフォームを使えることがBMWの強みでもあるからです。しかし、個人的にはEV専用のプラットフォームのi4を見てみたいです。パッケージ効率でもテスラに一歩も譲らず、イチから新設計したミドルクラスクーペのiシリーズはどんなクルマになるでしょうか?ワクワクしますね。

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