テスラの本気を見た! メガキャスティングの可能性と欠点

 テスラが推し進めている革新的な製造技術【メガキャスティング】(ギガプレス、ギガキャストとも)が一部界隈で注目を集めています。色々なサイトでこのテスラの新しい製造技術を解説していますが、本記事では現役自動車メーカーエンジニアがテスラのメガキャスティングの注目している点や考察を紹介させていただきます。メガキャスティングとはアルミ鋳造技術の一つです。鋳造技術全般についてはコチラの記事で紹介しています。

ほんとに良いの?メガキャスティング

出所:Wikipedia GIGAPRESS

 まず、テスラがメガキャスティングでアンダーボディを一体成型することを知ったときの印象は、『その作り方で本当にメリットあるの?』ということです。一般的な乗用車は鉄板をプレス成型し、溶接して組み上げたモノコック構造をしています。この従来構造のメリットは多く、『材料費が安い』『大量生産可能』『剛性を出しやすい』『適材適所ができる』等、古今東西さまざまな自動車メーカーが切磋琢磨しながら作り上げた構造です。

 これに対してテスラのメガキャスティングはどうでしょう?『先鋭的な』『他では簡単に真似できない』と言えば聞こえは良いですが、すぐに思い浮かぶデメリットもあり、メリットに関しても懐疑的にならざるを得ません。以下でその理由を述べていきます。

材料費が高い

 まず、メガキャスティングと言っても基本はアルミダイキャストのため、もちろん材料はアルミになります。重量当たりのコストは当然鉄よりもアルミが高くなります。自動車の構造用に使う特殊なアルミ合金であればなおさら高くなります。このアルミの製造コストをどれだけ下げれるかはテスラの戦略上、地味ですが重要なポイントです。

多品種大量生産には向かない?

出所:Wikipedia GIGAPRESS
出所:Wikipedia GIGAPRESS

 鉄板のプレス成型の場合は、コイル状に巻かれた鉄板から切り出し→プレスのサイクルを数秒で行いますが、アルミダイキャストはそうはいきません。溶けたアルミを圧力をかけて鋳型に流し込み、冷やして固めてから取り出す必要があります。テスラのメガキャスティングの場合、1個の部品を作るのに60秒〜120秒程度かかると言われています。月産数万台規模の大量生産には数台のギガプレスマシンを導入すれば可能ですが、設備投資が巨額になります。また、かなり大きな金型重量になるので、金型を交換しようとすると数時間かかるはずです。つまり多品種生産には向きません。一方で長い生産ラインを作る必要がなく、ダイキャストの巨大な鋳型を作ればある程度の生産性が得られます。ということは、少品種中量生産(〜大量生産)規模のクルマ(プラットフォーム)に向いているのがメガキャスティングだと考えられます。

 多品種生産には向かないと言ったものの、金型の交換さえできれば全く異なる部品も作ることができます。できないことよりもできることに目を向けていかないと、他の自動車メーカーは大きく出遅れることになりかねません。私もエンジニアとして危機感を持って注視していきたいと思います。

中空構造ができないメガキャスティング ボディ剛性は高い?低い?

 クルマのボディでアルミダイキャストを使う場所は、サスペンションの取り付け等の剛性を確保したい部位です。プレス成型ではできないリブ形状などを設けることで、必要なところに必要なだけ剛性をもたせることが可能です。しかし、メガキャスティングのような高真空ダイキャストは中空構造ができないという弱点があります。一方、クルマの骨格構造のほとんどは中空構造で構成されています。

 中空構造は中実構造と比べると、同等の質量で断面二次モーメントや断面係数を大きくすることができます(剛性についてはコチラで解説)が、この中空構造は高真空ダイキャスティングでは作れません。サスタワーのような面で力を受ける部位であれば剛性確保に有効ですが、中空断面にしたい骨格構造には不向きと言えます。形状を工夫せずに一体成型するだけでは、重いクルマか剛性が低いだけのクルマになってしまいます。テスラのリアアンダーボディの骨格構造を見ると、トポロジー最適化技術を使ってリブ(補強壁)を配置することで、剛性や強度をコントロールしていることがわかります。

テスラの技術 トポロジー最適化

出所:Tesla Model Y

ではテスラはどんな構造をしているでしょうか?リアタイヤの内側にあたるところの骨格(メンバー)部分が特徴的な造形をしています。骨格(メンバー)を中実にすると重くなってしまうため、リブ形状をトラス状に組んであります。しかし、リブの配置が一定ではなく、形もそれぞれ微妙に異なります。これは技術者が一つ一つ考えた構造では無く、『トポロジー最適化技術』が使われています。

『トポロジー最適化』とはコンピューターを使った解析技術で、決められた制約条件の中で最適な構造を計算で求めます。このトポロジー最適化構造こそがメガキャスティングの最重要ポイントです。制約条件や目標値をどう設定するか、メガキャスティングの製造方法とどう折り合いをつけるのかが技術者の腕の見せ所になります。メガキャスティングによる工法に最適化することでさらなる進化の可能性を秘めていると思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました