『リアタイヤを使える』サスペンションとは

 試乗記やYouTubeなどでモータージャーナリストが『このクルマはリアタイヤをよく使っている』という表現をしていることがあります。これは一体どういうことでしょうか?モータージャーナリストもあまり詳しく説明していないので、本記事で解説したいと思います。この記事で解説したいことの一つは車両運動性能としての力学的なリアタイヤの使い方、もう一つはドライバビリティ的な運転感覚としてのリアタイヤの使い方です。

リアタイヤを使う=ロール剛性配分?

 リアタイヤを使うという表現は、コーナリング中にリアサスペンションのストロークを使い、リアタイヤをしっかり動かしていることを指す場合が多いです。この現象を車両運動性能で考えると、リアサスペンションのロール剛性がフロントサスペンションのロール剛性よりも『相対的に』低い。ということになります。このロール剛性はサスペンションのジオメトリーやダンパーの減衰力、スプリングレート、スタビライザー等で決まります。『相対的に』というのはFFのように前後重量配分が6:4のクルマの場合はロール剛性配分も6:4が基本になります。この基本のロール剛性配分では、横Gに対して前輪と後輪のロール量が等しくなるので、フロントだけでなくリアサスペンションもよく動かすことができます。しかし、実際にはこの基本のロール剛性配分よりもリア側を高め、リアのロール量を減らしていることが多いです。

FFのクルマがリアサスを動かさない理由

 FFの場合、どうやってロール剛性配分を決めているかというと、前述の通り基本は前後重量配分に合わせます。重量が重い前輪側の方がコーナリング時の遠心力も大きいので、それに合わせてロール剛性も大きくします。

 限界時の挙動としてFFはリアタイヤのグリップ力が相対的に高くなり、アンダー傾向となります。これは前後のタイヤサイズが同じでリアの荷重が少ないためです。タイヤには荷重依存性があり、荷重とグリップ力は比例しません。荷重が小さいほど、相対的にグリップ力は大きくなるため、FFの重量配分だとフロント側が先に限界を迎えアンダーになります。

 このままだとアンダーが強いため、リアのロール剛性を高めるのが一般的です。リアのロール剛性を高めると旋回時の左右輪の荷重移動が大きくなり、タイヤの荷重依存性によりリアタイヤの限界が低くなります。反対にフロントはロール剛性が低く、左右輪の荷重移動は少なくなり、フロントタイヤの限界は高くなります。結果としてアンダーが弱まり、相対的にオーバーステア側に特性が変化します。

 昔のFF車でコーナーを攻めている時に内側のリアタイヤが浮いているのを見たことがある人もいると思います。これはリアのロール剛性を高め、フロントのロール剛性を下げた結果です。

 また、フロントのロール剛性を下げたほうがフロントタイヤのグリップ限界も高くなるので、駆動輪のトラクションを向上させることもできます。

FFでもリアのロール剛性を下げたい理由 ドライバビリティ

 ここまでの話だと、FFの基本特性としてのアンダーステアを抑える方向なので、リアのロール剛性を上げることは理にかなっているように思えます。それでも一部のモータージャーナリストやクルマ好きがリアサスがよく動く(リアのロール剛性が低い)セッティングを好むのは何故でしょうか?

 理由の一つは、車両の前後左右Gがわかりやすくコントロールしやすいことです。ドライバーは自分で考えている以上に車両の状態を実際のGではなく、車両のロールやピッチングの動的な動きで感じ取っています。一般的にはロールが少ないことが良いことだと言われていますが、ロールがゼロのクルマは乗りにくいだけです。理想としては前後の重量バランスと前後のロール剛性を同じ比率にして、左右Gに対する車両のロールを前後で同じにすると、前後輪のロール量が等しくなり、左右Gを感じとりやすくなります。実際は前述の通り、限界域でのアンダーステアを緩和するためにリアのロール剛性の比率を高めたり、大人数乗車や多くの荷物を載せることを許容するためにリアのスプリングレートを高めたりすることになります。

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